名古屋高等裁判所金沢支部 昭和40年(行コ)1号 判決 1966年5月11日
石川県鳳至郡穴水町字曽山へ十九番地
控訴人(原告)
山本ソヨ
金沢市出羽町二番丁一番地
被控訴人(被告)
金沢国税局長
佐藤健司
右指定代理人
川端満雄
同
渡辺柳太郎
同
老田実人
同
炭谷忠雄
同
竹園義雄
右当事者間の昭和四〇年(行コ)第一号贈与税審査決定等取消請求控訴事件につき当裁判所ほ左のとおり判決する。
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用ほ控訴人の負担とする。
事実
控訴人は、原判決中被控訴人に関する部分を取消す。被控訴人金沢国税局長が、控訴人の昭和三五年度贈与税課税価額につき、昭和三七年五月二六日なした審査決定はこれを取消す。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とするとの判決を求めた。
被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。
当事者双方の主張並びに立証関係は、左に附加する外、原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。
控訴人の陳述
一、本件不動産は、元控訴人方の所有で他人の所有となつていたのを、控訴人の父三左エ門が控訴人のため買戻して控訴人の所有となつたものであり、仮にそうでないとするも控訴人が父から買受けたものであることは、控訴人において従来主張してきたとおりであるが、その事情は次のとおりである。
(一) 父と母きのとの間に一男八女の子があつて内一男と五人の女が肺結核等にて死亡し、控訴人を除く他の二人の女が他に嫁し、なお控訴人も肺結核の苦しみを受け、控訴人方の生計は並々ならぬ状況であつた。
(二) これがため父は生活上大正一三年六月頃から昭和一一年末頃までの間に不動産を担保に又は信用にて金借し、或いは買戻付売買にて代金を取得し、その金額が多額に上り、借金苦のために自殺しようと思つたこともあつた程である。
(三) 控訴人は肺結核にて病気の智識も得て、昭和七年一二月(当時一九才)に看護婦の免許を受け旧小松看護婦会に入り派出看護婦となり、その後金沢市在の陸軍病院にて勤務し昭和一九年(当時三一才)まで一二カ年勤続し、その間の給料の大部分を父に送金したので、父は右借金を返済し或いは不動産を控訴人のために買戻した。しかして控訴人方は昭和一五年八月に七女が他に嫁して父母のみとなつていたところ、父は自作農問題から自作せねば農地を失う惧れがあるとて、控訴人に対し強く帰宅を求め、帰宅すれば父の財産を控訴人に移転すると約したので、控訴人は父の切なる願いに看護婦を止め昭和一九年に父母の許に帰つた。そして昭和二四年七月に山岸潔と結婚し長女を儲けたが、昭和二五年三月山岸と離婚した。
(四) 控訴人は右帰宅以来自作農業を維持してきたところ、母きのは昭和三三年一一月三〇日死亡し、その医療費や葬儀費などの費用五十万円を控訴人が父のため立替え、引続き孤独の父を扶養してきた。
父は前記買戻した不動産の中、母きの名義で昭和一三年一〇月に訴外山本与太から本件田七九筆を買戻しているが、母には買戻す資力が全くなかつたのであるから、これは控訴人名義に買戻すべきを誤つて母名義にしたものである。右不動産は母死亡に因り父と控訴人が共同相続したことになつたので、控訴人は昭和三五年五月九日父からその相続分を代金十五万円として買受ける契約をした。
(五) 控訴人は昭和三五年五月六日父から本件建物及び本件山林を買受ける契約をしたが、これは父が、控訴人において前記のごとく送金し又農業経営による所得の代償として売渡したものであつて無償的行為ではない。
二、控訴人が本件不動産を取得するに至つた経緯は右のごとくであり、控訴人は本件不動産を自己の名義にするために父に対し昭和二九年から昭和三五年までに約金八十四万円支払つているから、実際上は右金額が代金である。
父は昭和三七年三月二七日に死亡したが、その二日前の二五日に本件不動産が前記のごとく控訴人の所有であることを遺言にて明かにした、ただ右遺言は正規の遺言でないとして裁判所で認めてもらえなかつた。
三、控訴人の本件不動産の課税価額は相当でない。本件農地は控訴人が耕作しているから評価は低くされるべきであり又山林は雑木山であまり価値がない。
若し課税されるとしても、その評価は、
宅地 金 一万円
家尾 金 十五万円
田畑 金三十五万円
山林(地所) 金 十五万円
〃 (立木) 金 二十万円
と見るのが相当である。
立証関係
控訴人は、甲第一一乃至第一八号証を提出し、証人白藤憲三、控訴人本人の各尋問を求め、乙第一六乃至第二一号証の一、二、は不知と答えた。
被控訴代理人は、乙第一六乃至第二一号証の一、二、を提出し、甲第一一号証、第一三乃至第一八号証の成立を認め、甲第一二号証の成立を不知と答えた。
理由
一、当裁判所ほ控訴人の請求は認容できないと判断し、その理由は、左に補述する外、原判決摘示のとおりであるから、これを引用する。
(補述理由)
(一) 控訴本人尋問の結果の一部によれば、控訴人はその主張のごとく看護婦として働いて、父にかなりの送金をし、父の求めにより父母の許に帰つてから自己が中心となつて農に励んだことが認められ、控訴人の労を多とすべきである。しかしながらこのようなことは、父母に育てられた子が家族団体員として、家政の苦境を知り、又父租伝来の農業を維持する必要がある場合に、一般的に当然期待されるべき行為であるところ、若し控訴人がその主張のごとき原因にて本件不動産を取得したときは、控訴人の父への送金や農に専従したことほ、すべて控訴人自身のために代償を求めてなした行為となり、家族生活としては常識に副わない事例と云わねばならない。しかして右のごとく異例と観られる控訴人主張の本件不動産の取得原因たる事実は、これに副う控訴人本人尋問の結果は容易に信を措くことができず、又甲第一一乃至第一三号証も真実のことを記載したものとは信ぜられず、控訴人の全立証によるも控訴人主張の右事実を認めることができない。
(二) 公文書であるからその成立を認める乙第一六乃至第二一号証の一、二、及び弁論の全趣旨に(特に控訴人主張の本件不動産の課税評価の見積りは合計金八十六万円)によれば、被控訴人主張の課税価額は相当と認められる。
二、よつて被控訴人に対する請求を棄却した原判決ほ相当であつて本件控訴は理由がないからこれを棄却すべく、訴訟費用の負担につき民訴八九条に則つて主文のとおり判決する。
(裁判長判事 西川力一 判事 寺井忠 判事広瀬友信ほ転勤につき署名押印することができない。裁判長判事 西川力一)